なんだかアニメのようなタイトルになりましたが内容は真面目です。トランプ2.0政権の開幕を控え、今回は、インフレを抑えたいトランプ氏の政策がさらなるインフレを引き起こすのではないかという問題にクローズアップしつつ、マーケットの仕組みを理解しようという趣旨のコラムを書きたいと思います。三角ボタンを押すと、基本的なマーケットの解説が表示されます。
米国債の利払い額が5,000億ドルから1兆ドルに
まずは、トランプ氏がインフレを抑えたいと思うに至った経緯から説明します。
2023年11月、バイデン政権中に米国債の利払い額が5,000億ドルから1兆ドルになるというニュースが発表されました。2017年-2021年のトランプ政権時にも利払い額が増えていましたが、バイデン氏に交代する頃には、トランプ氏就任前ぐらいの水準にまで戻っていました。しかし、バイデン氏が大統領になってからはとんでもない勢いで利払い額が増えてしまいました。
国債とは
国債というのは政府が発行する借金のことです。政府はお金が必要なときに、国民や企業からお金を借りて、その証明書として国債というものを渡します。国民や企業がその国債を買ってお金を貸すと、将来そのお金に利子がついて返ってきます。
利払い額が増えるとは
政府が、国民や企業から借りたお金に対して支払う利子の総額が増えることを意味します。一般的に、政府がたくさんのお金を借りたり、中央銀行が金利を上げると利払い額が増えます。
利払い額が増えた背景には、新型コロナウイルスによるパンデミックが大きく関係していると筆者は考えています。医療支援への資金投入や離職を余儀なくされた人たちの雇用目的でのインフラ整備などに多くのお金が必要になったのでしょう。
トランプ氏はバイデン政権下のインフレを非難
バイデン政権中、前述の通り米国債の利払い額が倍額になり国債をたくさん発行していたにも関わらず、物価が上昇する事態になりました。この物価高についてトランプ氏は「私は『バイデン・インフレ』の悪夢を終わらせる」と訴えていました。
一般的に国債発行数が増えると物価は下がる
政府がたくさんの国債を発行するということは、市場に国債がたくさんあるということです。市場に国債がたくさんあると国債の価値が下がり、国債の価格(債券価格)が下落します。政府はたくさんの人に国債を買ってもらいたいので国債の金利を上げ、利子を高く設定します。国民や企業は、国債を買うのにお金を支出したり、金利が上がって銀行などからお金を借りづらい状況になったりします。つまり、国民や企業の財布の中のお金が少なくなるということです。財布の中のお金が少ないと、買い控えが発生したり設備投資を見送ったりして消費が落ち込みます。それでも企業は自社製品や自社サービスを買ってもらいたいので、それらの価格を下げて売り出します。結果的に物価全体が下がる傾向にあります。
なぜ、国債をたくさん発行したにも関わらず、物価が上昇したのでしょうか。いくつか理由があると思いますが、最も分かりやすいのはアメリカ救済計画法でしょう。2020年3月11日にWHOがパンデミックを宣言し、トランプ政権のもと2回の給付金(1人当たり1200ドル、600ドル)が行われ、インフレに向かっている最中、バイデン政権でアメリカ救済計画法の基、2021年3月に追加給付金として1人当たり1400ドルを支給しました。当時は国民に喜ばれたかもしれませんが、中長期的にみると、この行為はインフレを加速させた要因の1つとなったことでしょう。
トランプ氏はインフレを抑えたい!でも……
ようやく本題です。
トランプ氏は、自国民を優先するための”不法移民の排除”、物価高に苦しむ国民や企業のための“減税”、減税分を補うための“関税アップ” といった政策を掲げています。しかし、それらの政策は全て、さらなるインフレに繋がるのではないかと言われています。その理由を解説していきます。
不法移民の排除
不法移民とはいえ、人間である以上、何かしらの方法でお金を稼ぎ生活をしなければなりません。そんな彼らの多くは、おそらく安い賃金で働いているでしょう。安い賃金で働いてくれる人たちを排除すると、自国民の就労先は増えます。しかし、自国民の人たちを雇うには、それなりの賃金を払わなくてはなりません。企業側からすると、人件費が増えるわけです。人件費が増えると当然、商品やサービスの価格を高く設定しなければなりません。結果的に物価高に繋がります。
減税
物価高に苦しむ国民や企業からしたら減税は大歓迎な政策です。しかし、今まで税金の支払いに使っていたはずのお金が手元に残ると、ほとんどの人は何かしらの商品を購入したり、サービスを利用することにお金を使ってしまいます。そうした需要がうまれると、企業は「少しぐらい高くしても売れるぞ!」と手ごたえを感じます。結果的に物価高に繋がります。
関税アップ
減税をした穴埋めにトランプ氏は関税をアップする方針を打ち出しています。しかし、これもインフレに繋がるのではないかと言われています。関税アップがインフレに繋がるケースを考えてみましょう。
関税が高くなるということは、アメリカの企業からすると輸入商品の仕入れが高くなるということを意味します。高くなった輸入商品を消費者が購入すればインフレに繋がりますし、輸入商品の買い控えが発生すればアメリカ企業は「輸入品と競争する必要がないので同等のものであれば国内で作った商品の価格を上げても大丈夫だよね」と判断するかもしれません。そのような判断もインフレに繋がります。
また、投資家から「アメリカ国内での生産が増える」と期待されドル高になれば、アメリカの商品が他国に売りづらくなります。アメリカ企業は「外国で売れないけど利益は欲しい」と思うので、アメリカ国内で販売する商品の値上げをする可能性があります。
関税とは
例えば中国で作られた商品をアメリカで販売する為に、アメリカの企業が中国から輸入する際、アメリカの輸入企業がアメリカ政府に支払う税金のことです。トランプ氏は、対中国の関税を60%にすることを想定しています。つまり、もしこの関税が実現した場合、中国で作られた100ドルの製品を輸入するには、100ドルを中国に、60ドルをアメリカ政府に支払わなければなりません。
インフレ抑制に繋がりそうな政策
一般的にインフレが進むと株式市場が上昇しやすく、国債市場は下落しやすいと言われます。前述の政策はいずれもインフレを加速させ、米国債市場を暴落させる危険性があると言われている一方、インフレ抑制についてトランプ氏は、石油や天然ガスの増産を通してエネルギーコストを下げると主張していました。
しかし今月6日、バイデン大統領が「米国の沿岸や沖合(米国の東西両海岸・メキシコ湾東部・アラスカ沖の一部:計約250万平方キロメートル)において期限を定めず、新たな石油や天然ガスの開発を禁止する」と発表しました。それを受けてトランプ氏は20日の就任後、すぐにでも撤回する姿勢を示しました。
おわりに
トランプ氏の政策は、インフレを抑えたいという意図がある一方で、実際にはさらなるインフレを引き起こす可能性があります。特に不法移民の排除や減税、関税アップなどの政策は、短期的には効果があるかもしれませんが、長期的には物価上昇を招くリスクがあります。今後の動向に注目が必要です。
次回は、『[トランプ2.0特集②] マスク氏は歳出を減らしたい!』をお送りします。
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