ステーブルコインには、法定通貨を担保にしたものから、暗号資産を担保にしたものまで、いくつかのタイプがあります。
前回は、ドルなど裏付け資産とする法定通貨担保型について紹介しました。
今回は、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)といった暗号資産を担保に発行される暗号資産担保型ステーブルコインについて解説します。
ステーブルコインとは?
ステーブルコインとは、価格の安定を実現したデジタル通貨のことです。通常の暗号資産(ビットコインなど)は値動きが大きく、1日で大きく上下することがありますが、ステーブルコインは1コイン=1ドルのように、特定の通貨とほぼ同じ価値を保つことを目指しています。
ステーブルコインは、担保の仕組みによって大きく3つに分類されます。
- 法定通貨担保型:ドルなど実際の通貨を銀行などに預け、その分だけ発行するコイン
- 暗号資産担保型:ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を担保とするコイン(今回はこちらを解説します)
- 無担保型(アルゴリズム型):担保を持たず、供給量を自動調整して価値を保つコイン
暗号資産担保型とは?
暗号資産担保型ステーブルコインは、暗号資産を担保(保証)として預けることで、安定した価値のコインを発行できる仕組みです。
ビットコインやイーサリアムなどは値動きが激しいため、発行したいコインの価値よりも多めに担保を預けて安全性を保ちます。この管理は企業や銀行ではなく、スマートコントラクト(自動プログラム)というブロックチェーン上の仕組みによって行われます。
ここでは、代表的な暗号資産担保型ステーブルコインである DAI(ダイ) を例に、発行から償還までの流れを見てみましょう。
■登場人物
- ユーザー:ステーブルコインを使う人(送金・決済・運用など)
- ヴォルト利用者(=発行者):担保を預けてDAIを借りる人
■前提
- 担保資産:イーサリアム(ETH)
- ステーブルコイン:DAI(1DAI=1ドルを目指す)
- 最低担保率:150%(1ドル分のDAIを借りるには1.5ドル分のETHを預ける必要がある)
■発行までの流れ
① 担保の預け入れ
ヴォルト利用者が100ドル分のDAIを発行したい場合、まず専用プラットフォーム(例:MakerDAOが運営する Oasis.app など)で発行を申し込み、自分のウォレットから150ドル分のETHをヴォルト(金庫)に預けます。
ETHの価格は常に変動するため、借りたい金額より多めに担保を預ける(過剰担保)必要があります。
② コインの発行
スマートコントラクトが担保の預け入れを確認すると、自動的に100DAIが新しく発行され、利用者のウォレットに送られます。預けたETHはヴォルトの中でロック(固定)され、取り出すことはできません。
もしETHの価格が下がって担保率が150%を下回ると、システムが自動で清算(リクイデーション)を行います。この仕組みでは、ユーザーがETHを担保にしてDAIを借りているため、価格が下落すると担保が不足し、借りすぎの状態になります。
そのため、システムが自動的に担保の一部を売却し、借りたDAI(借入金)を返済するために充てるのです。
■送金・決済・売買
③ 利用・送金・決済
発行されたDAIは、他のユーザーへの送金や、商品・サービスの決済手段として利用できます。
また、DeFi(分散型金融)と呼ばれるサービスで、DAIを貸し出したり、利息を得たりすることも可能です。
DAIはドルとほぼ同じ価値を目指して設計されており、取引所ではおおむね1DAI=1ドル前後で取引されています。
④ 取引所での売買
取引所では、ユーザーが法定通貨(ドルなど)とDAIを交換することができます。
もし、1ドル=1DAIであるなら、100DAIを買うには100ドルが必要となります。為替レートによっては、他国通貨(円など)に換算すると金額が変わります。
例えば、日本円で100DAIを購入する場合、DAIはドルと連動しているため、為替レートが1ドル=150円の時には、1DAI=150円として換算され、100DAIの購入には15,000円が必要となります。
■償還(現金に戻す)
⑤ 償還申請とバーン(削除)処理
ヴォルト利用者(=DAIを発行した人)は、借りたDAIを返すことで担保のETHを取り戻せます。
返済が完了すると、返したDAIはブロックチェーン上でバーン(消却)され、発行済みのDAIの総量が減ります。
これにより、通貨の安定性が保たれます。
⑥ 担保の払い出し
返済を終えると、スマートコントラクトがロックを解除し、担保のETHを自動的に返します。その際、わずかな安定化手数料が引かれます。
例えば、最初に100DAIを発行し、全額返済した場合、150ドル分のETHから手数料を引いた分が戻ってきます。
おわりに
暗号資産担保型ステーブルコインは、過剰な担保とブロックチェーン上の自律的な仕組みによって価値を安定させることができます。そのため、暗号資産の相場が不安定な際には、一時的に資産を避難させる手段としても活用できます。
ただし、法定通貨担保型とは異なり、完全に価格変動リスクを排除できるわけではありません。担保となる暗号資産の価格が急落したり、市場で大量のステーブルコインが売却されたりすると、一時的に1ドルの価値から乖離する可能性があります。
次回は、3つ目のタイプである無担保型(アルゴリズム型)ステーブルコインについてご紹介します。
【参考資料】
金融庁 WG4 ディスカッション資料『ステーブルコインの技術面での現況について』- 株式会社NTTデータ 次世代決済技術推進室
金融庁『暗号資産制度について』
金融庁『説明資料 安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための 資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案』
金融庁『事務局説明資料』
MakerDAO『Makerプロトコル:MakerDAOの複数担保型Dai(MCD)システム』
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