注目のJPYC|法定通貨担保型ステーブルコインの基本解説

マネー

日本で今秋、新たな円建てのデジタル通貨が誕生するのをご存知ですか?

それが「JPYC」というステーブルコインです。ステーブルコインはその名のとおり「価格の安定(stable)」を目指したコインで、暗号資産で使われる技術を活用しつつも従来の暗号資産とは異なり、ドルや円と1対1で交換できる仕組みが特徴です。

今回は、このステーブルコインの基本的な仕組みや種類、とくに今秋から運用が始まる予定の法定通貨担保型について解説します。

ステーブルコインとは?

ステーブルコインとは、法定通貨(ドルや円など)といった特定の資産の価値に連動させることで、価格の安定を実現したデジタル通貨のことです。通常の暗号資産は市場の需給によって価格が大きく変動しますが、ステーブルコインは「1円=1コイン」といった1対1の形で価値を固定しようとします。そのため、単なる投資対象というよりも、デジタル時代の新しい決済手段としての利用が強く期待されています。

ステーブルコインを発行する事業者は、新しいコインの発行や、コインを現金に戻す償還を行います。その際、コインの裏付けとなる資産の種類によって、ステーブルコインは大きく3つに分類されます。

  • 法定通貨担保型:米ドルや円など、実際の法定通貨を裏付け資産とするコイン(※今回はこちらを解説します)
  • 暗号資産担保型:ビットコインやイーサリアムなど、暗号資産を担保とするコイン
  • 無担保型(アルゴリズム型):法定通貨や暗号資産といった担保を持たず、供給量を自動で調整するコイン

法定通貨担保型とは

法定通貨担保型は、最も安定性が高いとされるステーブルコインです。発行額と同等以上の法定通貨(ドルや円)や短期国債などの安定資産を担保として保有することで、その価値を保証する仕組みです。

ここでは、法定通貨と連動したステーブルコインが、どのように発行され、流通し、現金に戻るのかを、円と連動するJPYCを例に順番に見ていきましょう。

■登場人物
  • ユーザー:コインを持つ個人や企業
  • 発行者:ステーブルコインを発行する事業者(銀行など)
■前提
  • 今回の発行者はJPYC社とする
  • 1円=1JPYCと仮定
■発行までの流れ
① コインの購入申込と入金

先ずは、取引所のアプリ等で本人確認を行い口座を開設します。その後、アプリ等で現金と引き換えにコインを購入します。例えば、Aさんが1万円分のJPYCを購入する場合、アプリ等で10,000JPYCの購入を申し込み、指定された口座へ1万円を振り込みます。この1万円は、発行者の自社資金とは分けて、裏付け資産として安全に保管されます。

②コインの発行と着金

発行者は入金を確認すると、ブロックチェーンという取引台帳に記録を残しながら、新たに10,000JPYCを発行します。新規発行されたコインは、Aさんのウォレット(デジタルのお財布)に送られ、利用できるようになります。

■送金・決済
③ ユーザー間送金

AさんがBさんに5,000JPYCを送ると、ブロックチェーン上で直接やりとりされ、数十秒から数分程度(利用するネットワークによっては異なります)でBさんのウォレットに着金します。その際、ガス代と呼ばれるブロックチェーン利用料や送金手数料がかかることもあります。

④ 店舗決済

Bさんは受け取ったJPYCをそのまま保有することも、日本円に戻すことも、別の支払いに使うことも可能です。例えば、ネットショップで3,000円の商品を購入する場合、3,000JPYCを使って支払うことができます。ショップ側も受け取ったJPYCを保有するか、日本円に換金するか、再度利用するかを選べます。

■償還(現金に戻す)
⑤償還申請とバーン(削除)処理

ステーブルコインの大きな特徴は「いつでも現金に戻せる」ことです。例えば、Bさんが残りの2,000JPYCを日本円に換金したいと申請した場合、発行者は2,000JPYCを受け取り、ブロックチェーン上からそのコインを消却します。これにより、発行総量が減少します。

⑧ 現金の払い出し

コインの処理が確認された後、裏付け資産から2,000円が取り崩され、Bさんの銀行口座に振り込まれます。これで「2,000JPYC ↔ 2,000円」の1対1交換が完了します。

おわりに

法定通貨担保型は、発行総量が常に裏付け資産の残高と一致するよう管理されており、ユーザーはいつでも安心して法定通貨に換金することができます。そのため、シンプルなルールで、発行・利用・償還が可能となっています。

さらに、今秋登場するJPYCは、クレジットカードの返済にも充てられるなど、今後、日常生活での利便性向上にもつながると期待されています。

ただし、この仕組みが成り立つのは、発行元がきちんと裏付け資産を管理・保管していることが前提となります。コインと同じ価値の資産が確実に保全されているかどうかは、最終的に発行元の信頼性に左右されるため、利用する際には発行元や銘柄の信頼性を確認することが大切です。

次回は、2つ目のステーブルコインのタイプ、暗号資産担保型をご紹介します。

【参考資料】
金融庁 WG4 ディスカッション資料『ステーブルコインの技術面での現況について』- 株式会社NTTデータ 次世代決済技術推進室
金融庁『暗号資産制度について
金融庁『説明資料 安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための 資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案
金融庁『事務局説明資料

執筆者:鍛治田祐子

■ファイナンシャルプランナー

【保有資格】CFP®認定者 1級ファイナンシャルプランニング技能士

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