少子高齢化や人口減少が進む日本では、空き家が年々増え続けています。使う予定のない家を相続したり、長年空き家となった実家をどうするか決められなかったりと、誰にとっても身近な問題になりつつあります。売却や解体には多額の費用がかかるため、そのまま放置してしまえば、思わぬトラブルや税負担につながる恐れがあります。
今回は、そんな空き家の現状と放置によるリスク、そして解決策についてご紹介します。
年々増加する空き家の現状とその種類
「令和5年住宅・土地統計調査」によると、2023年10月1日時点で日本の総住宅数は6,504万戸に達し、過去最多を更新しました。一方で、空き家も増加の一途をたどり、その数は900万戸とこちらも過去最多を記録しました。総住宅数に占める空き家率は13.8%、単純計算で日本全国の約7軒に1軒が空き家という状況です。
また、空き家と一口に言っても、その性質は様々です。総務省の統計では、空き家を以下の4つに分類しています。
・賃貸用の空き家:借り手を探している住宅
・売却用の空き家:売り出し中の住宅
・二次的住宅:別荘やセカンドハウスなど、時々利用される住宅
・その他の空き家:上記以外の住宅で、長期間使われていない、もしくは、取り壊し予定の住宅。(空き家の種類の判断が困難な住宅を含む。)
このうち社会問題化しているのは“その他の空き家”です。つまり、貸すわけでも売るわけでもなく、使用されていない住宅が増えているのです。その数は385万戸に上り、これは日本の総住宅数の5.9%にも相当します。これらは老朽化が進みやすく、倒壊や衛生面でのリスクが大きいため、行政からも重点的に対策が求められています。
空き家が放置される理由
なぜ空き家は増え続けるのでしょうか。その背景にはいくつかの要因があります。
解体費用の負担
「令和元年空き家所有者実態調査 報告書」によると、空き家にしておく理由として最も多かったのが「物置として必要」、次いで多かったのが「解体費用をかけたくない」でした。実際に解体には数百万円単位の費用がかかることもあり、想定以上の負担から「とりあえず現状のままにしておく」という判断につながるケースも少なくありません。このような事情から、空き家問題は解決が先送りされ、長期化してしまうのです。
固定資産税の制度の問題
住宅が建っている土地には住宅用地特例が適用され、固定資産税が最大で6分の1に減額されます。この特例があるため、「家を解体して更地にすると税金が高くなる」という逆転現象が発生し、空き家の放置を後押ししているのです。
相続による取得
国土交通省の調査によると、空き家を取得した人の54.6%が相続によるものです。また、所有者の約3割は遠方に住んでいるため、思いがけず家を相続しても、すぐに住んだり売却したりする準備が整わず、結果として空き家となっているケースも見られます。相続人が複数いる場合は意思決定に時間がかかることもあり、これが空き家問題をさらに複雑にしています。
放置するとどうなる?空き家がもたらすリスク
対応を先延ばしにした空き家は、大切な資産を「負動産」へと変えてしまう可能性があります。代表的なリスクとして次のようなものが挙げられます。
法改正で厳しくなった空き家対策
これまで行政が本格的に関与できたのは”特定空家等”に限られていました。
法律上、”特定空家等”とは下記に該当する空き家のことです。
・そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
・そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
・適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
2023年の法改正により、新たに”管理不全空家等”という区分が設けられました。
これは、適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当するおそれのある空き家を指します。
管理不全空家等に指定されると、従来よりも速い段階で行政からの指導・勧告を受けることになります。これにより「取り敢えず放置しておこう」という考えは通用しづらくなっています
固定資産税の負担増
空き家を放置する上での、大きなリスクの一つが税負担の増加です。
通常、住宅が建っている土地は“住宅用地特例”により固定資産税が最大で6分の1に軽減されています。しかし、空き家が“管理不全空家等”や“特定空家等”に指定され勧告を受けると、この特例が解除され、固定資産税の負担が大幅に増加します。
近隣トラブルや責任問題
さらに空き家を放置すると、近隣からの苦情や法的責任を問われる可能性もあります。
雑草や害虫の発生で周辺環境に悪影響が及ぶ恐れがある他、建物の老朽化による倒壊や瓦の落下による通行人等への被害、また、放火や不法侵入のリスクもあります。もし事故が起きた場合、所有者が損害賠償責任を負うケースもあります。
解決策は?4つの選択肢
自治体から勧告を受ける前にできる対策には、主に4つあります。
1.解体
「解体費用が高くて手が出せない」という理由で空き家を放置しているなら、まずはお住まいの自治体に相談してみましょう。多くの自治体では、老朽化した空き家や危険家屋の解体費用を補助する制度を設けています。
補助金の割合や上限額は自治体によって異なりますが、数十万円から百万円単位の補助金が受けられるケースもあります。この補助制度を賢く利用することで、解体の経済的負担を大きく軽減することができます。
2.維持・管理
すぐに売却や活用をする予定がない場合でも、空き家を適切に管理することは重要です。定期的に換気や清掃を行い、庭木の手入れをするだけで建物の劣化を遅らせ、近隣トラブルやリスクを防ぐことができます。
自分で行うのが難しい場合は、空き家管理サービスを利用するのも一つの手です。費用はかかりますが、家が荒れるのを防ぎ、将来の選択肢を維持することができます。
3.売却
「誰も買わないだろう」と諦める前に、まずは不動産業者に相談してみましょう。立地や土地の形状によっては、古い建物であっても土地の価値で売却できる可能性があります。
また、相続した空き家を売却する際には、譲渡所得の特別控除が利用できる場合もあります。この制度の対象となれば、売却益から最大3,000万円が控除され、税金の負担を大幅に減らすことができます。ただし、この特例を受けるためには、売却時期や建物の要件など、様々な条件があるため、詳細は専門家に確認しましょう。
もし、不動産業者での売却が難しいようであれば、選択肢を広げましょう。自治体が運営する空き家バンクを活用すれば、地域の情報を求めている人や移住を検討している人に情報が届きやすくなります。また、誰も引き取り手がない空き家は、一定の条件を満たせば相続土地国庫帰属制度を利用して国に引き渡すことも可能です。それぞれの制度には条件があるため、自治体の窓口などに相談して確認してみるのが良いでしょう。
4.活用
「空き家はもったいないから、何かに使いたい」と考えるなら、活用も有効な選択肢です。
自治体が運営する空き家バンクや地域の不動産業者を利用すれば、賃貸物件として活用する方法が見つかるかもしれません。また、老朽化した家でも、リフォームすることで新たな価値を生み出せます。
多くの自治体では、空き家をリフォームする費用を補助してくれる制度を設けています。これらの制度を上手に活用すれば、費用を抑えながら、あなたの空き家を収益を生む資産に変えることが可能です。
おわりに
見た目は空き家でも、そこには家族の思い出が詰まった大切な資産が眠っています。ただし、放置してしまえば「負動産」となり、あなたやご家族に大きな負担を与える可能性もあります。問題が大きくなる前に、建物の状態や土地の状況、そして家財道具の処分費用などを把握し、「どのように手放すか」「どのように活用できるか」といった選択肢を事前に話し合っておくと良いでしょう。
【参考資料】
国土交通省『空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律(令和5年法律第50号)について』
国土交通省『空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報』
国土交通省『空き家政策の現状と課題及び 検討の方向性』
総務省『令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果』
国土交通省『令和元年空き家所有者実態調査報告書』
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