雑損控除と災害減免法|災害時に税金を減らす2つの制度

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自然災害はいつ私たちの生活を襲うかわかりません。近年は短時間強雨が増え、内閣府によると、過去10年間(平成24年〜令和3年)で全国の市町村の約98%が水害を経験しています。地震や台風など、自然災害は地域や人を選ばず、大切な住まいや家財を一瞬で奪うこともあります。

今回は、そんな「もしも」のときに、税金の負担を軽くする制度を2つ解説します

災害時の税金支援制度

災害による被害は、家屋や家財の損失、修繕費、撤去費用など多岐にわたり、家計に大きな負担をもたらします。こうした負担を軽くするために、国は “雑損控除” と “災害減免法” という2つの制度を設けています。条件に応じてどちらか一方を利用することで、被災後の税負担を減らし、生活再建を後押しできます。
どちらの制度も共通して、以下の条件があります。

  • 損害を受けた資産が、①納税者本人が所有するもの、または②同一生計の親族(その年の総所得金額等が58万円以下)が所有するものであること。
  • “雑損控除” と “災害減免法” は併用できないため、どちらか一方を選択すること。
  • 制度を利用するには確定申告が必要(給与所得者で年末調整を受けている場合も含む)。

雑損控除

雑損控除は、災害による損失だけでなく、盗難や横領による損害にも適用される、幅広い範囲をカバーする制度です。

(1) 雑損控除の対象となる災害・損害

雑損控除では震災、風水害、冷害、雪害、落雷といった自然災害、火災や害虫などの異常災害、その他にも盗難や横領が対象となります。
住宅や家財など生活に通常必要な資産が損害として認められる範囲であり、事業用の資産や、価額が30万円を超える貴金属、別荘などは原則として対象外となります。

(2) 雑損控除の計算方法

雑損控除の金額は、以下の2つの計算式のうち大きい方が採用されます。

①損失額 - (その年の所得金額 × 10%)
②災害関連支出の金額 - 5万円

災害関連支出の金額とは、住宅や家財などの取り壊し、原状回復費用などやむを得ない支出を指します。土砂の除去費用や原状回復など修繕や損壊を防止する費用は、災害のやんだ日から1年以内が対象です。

雑損控除は所得控除の1つであり、計算された雑損控除額はほかの所得控除と合算し、所得税額の計算前に差し引かれます。控除しきれなかった金額は翌年以降3年間繰り越して控除できます。

(3) 雑損控除のメリット・デメリット

【メリット】
●損失額が大きいほど課税所得を大幅に減らせる。
●控除しきれない額は3年間繰り越せる。
●自然災害だけでなく、盗難や横領など突発的な被害にも対応。

【デメリット】
●所得が少ない場合、雑損控除しても還付や減税の効果が小さい場合がある。

災害減免法

災害減免法は、住宅や家財に大きな被害を受けた場合に、所得税そのものが減免される制度です。雑損控除よりも適用条件は厳しいものの、所得税額に直接反映されるため、計算は比較的シンプルです。

(1) 災害減免法の適用条件

災害減免法を適用するためには、災害があった年の所得金額が1,000万円以下であり、住宅または家財の損失額が時価の2分の1以上である必要があります。これらの条件を満たさない場合は、災害減免法は適用できず、雑損控除の利用を検討することになります。

また、災害減免法では震災、風水害、冷害、雪害、落雷といった自然災害、火災や害虫などの異常災害のみが対象であり、盗難や横領は含まれません。

普段生活している家や生活に通常必要な家財に損害が認められた際に適用されます。

(2) 災害減免法の軽減・免除額

適用条件を満たしている場合、所得金額に応じて所得税額が軽減または免除されます。
所得金額の合計額が500万円以下であれば、所得税額の全額が免除されます。
所得金額の合計額が750万円以下であれば、所得税額の2分の1が、1000万円以下であれば所得税額の4分の1が軽減されます。

減税・免税額は所得控除後の所得税額等に適用されます。

(3) 災害減免法のメリット・デメリット

【メリット】
●損失額ではなく所得税そのものが減るため、特に所得が少ない人に有効。

【デメリット】
●被害の程度や所得金額に制限があるため、利用できる人は限られる。
●雑損控除と違い、翌年以降への繰り越しはできない。

損失額の計算方法

雑損控除と災害減免法、どちらの制度を利用する場合でも、損失額を正確に把握する必要があります。

(1) 損失額とは

損失額は、災害によって受けた損害の総額から、保険金など補填された金額を差し引いて計算します。損害の金額は、損害が生じる直前の時価を基に算出した額で、住宅などの原状回復費用(修繕費)も含まれます。

もし損害を受けた資産が減価償却資産(住宅や家財など)であれば、その資産の取得価額から、減価償却費の累積額を差し引いた金額を基に計算することも可能です。

(2)計算方法

住宅の主要構造部に損壊があり、損害を受けた資産について個々に損失額を計算することが困難な場合には、次の方法で算出することができます。

取得価額が明らかな場合

損失額 =(住宅の取得価額 - 減価償却費)× 被害割合

取得価額が明らかではない場合

住宅に対する損失額 =〔(1㎡当たりの工事費用 × 総床面積)- 減価償却費〕× 被害割合
家財に対する損失額 = 家族構成別家庭用財産評価額 × 被害割合

減価償却費は、「取得価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数(1年未満の端数は6月以上は1年、6月未満は切り捨て)」で求められます。
ここでいう償却率とは、資産の価値が毎年どのくらい減っていくかをパーセントで示したもので、国が定めた耐用年数に応じて決まります。
耐用年数は、資産がどのくらいの期間使えるかを国が目安として定めたもので、木造や鉄筋コンクリート(RC造)など、住宅の構造によって異なります。非事業用資産(=居住用資産)の場合、この耐用年数を1.5倍にして計算します。
国税庁のサイトには、すでに構造別に1.5倍した耐用年数と、それに対応する償却率が「主な非業務用資産の償却率」として掲載されているので、そちらを参考にしてください。

その他の被害割合は「被害割合表」を、工事費用は「地域別・構造別の工事費用表(1m2当たり)」を、財産評価額は「家族構成別家庭用財産評価額」を、それぞれ国税庁のサイトから確認することができます。

もし対象区分に迷った場合は税務署に相談することをおすすめします。

おわりに

災害はいつ起こるかわからず、被害を受けると心身だけでなく家計にも大きな負担がかかります。しかし、今回ご紹介した雑損控除と災害減免法を知っておくだけでも、税金面での負担を軽減できるかもしれません。

被害を受けた際には、まずは損失額の確認や必要書類の整理を行い、どちらの制度が自分に適しているかを判断しましょう。制度の適用には確定申告が必要になるため、わからないことがあれば税務署に相談し、早めに準備しましょう。

【参考資料】
内閣府(防災担当)『市町村のための水害対応の手引き
国税庁『災害等にあったとき
国税庁『No.8004 災害により被害を受けたときの所得税の取扱い
国税庁『災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
国税庁『No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除
国税庁『Ⅲ‐2 雑損控除の適用における「損失額の合理的な計算方法」
国税庁『「減価償却費」の計算について(主な非業務用資産の償却率)
国税庁『被害割合表
国税庁『地域別・構造別の工事費用表(1m2当たり)【令和6年分用】
国税庁『家族構成別家庭用財産評価額

執筆者:鍛治田祐子

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