遺族年金制度は、残された家族の暮らしを支える大切な仕組みです。しかし、その内容は複雑で、これまで性別や年齢によって受給に差が出ることもありました。
2025年に成立した法改正では、こうした不公平を見直し、現代の多様な家族のかたちや働き方に合った制度へと再構築することが目的とされています。
今回は、2028年から遺族年金がどのように見直されるのか、その背景や改正内容、影響を受ける人・受けない人の違いについて解説します。
遺族年金制度の概要
遺族年金制度とは、国民年金や厚生年金保険に加入していた人が亡くなった際、その人に生計を支えられていた遺族に対し、生活支援として年金が支給される公的な社会保障制度の一つです。
遺族年金には、大きく分けて次の2種類があります。
一つは国民年金の加入者が亡くなった場合に支給される「遺族基礎年金」で、子のある配偶者または一定の年齢までの子が対象となります。
もう一つは、厚生年金の加入者が亡くなった場合に支給される「遺族厚生年金」で、配偶者や子のほか、条件を満たす父母・孫・祖父母などが対象です。
亡くなった人の年金加入状況や遺族の状況に応じて、いずれか一方または両方の年金が支給される仕組みになっています。
なぜ制度が見直されるのか?
今回の遺族年金制度の見直しは、社会の大きな変化に対応するために行われるものです。政府はその背景として、女性の社会進出や就業率の上昇、共働き世帯の増加、さらに家族の形の多様化といった要因を挙げています。これまでの制度は、男性が一家の生計を支え、女性は専業主婦として家庭を守るという生活モデルを基本に構築されてきましたが、そうした前提は、もはや現代の実情に合わなくなってきました。
例えば、現行制度では30歳以上の妻で子どもがいない場合には遺族厚生年金が無期限で支給されるのに対し、夫が妻を亡くした場合には55歳未満では支給そのものが受けられないといった違いがあります。また、配偶者の状況によって、たとえ子どもがいても遺族年金が支給されないケースも存在します。
こうした性差や、制度の手が届いていなかった部分を見直し、男女を問わず公平に年金を受け取れる仕組みに転換するとともに、親を失った子どもの生活保障を強化することが、今回の制度改正の目的です。
2028年からどう変わる?
遺族年金制度に関する新しい制度は、2025年6月に国会で可決・成立しました。これにより遺族年金の見直しの多くは、2028年4月1日から段階的に施行される予定です 。
今回の改正の主要ポイントは以下の通りです。
遺族厚生年金
2028年4月以降、遺族厚生年金の仕組みは大きく変わります。特に影響が大きいのは、子どものいない配偶者です。
子のいない配偶者への5年間有期給付の原則化
現行制度では、子どものいない妻の場合、遺族厚生年金は30歳未満に限り5年間の有期支給となり、30歳以上であれば遺族厚生年金が生涯にわたって支給されます。しかし、2028年4月からは、この年齢基準が40歳未満まで引き上げられます。政府は今後、年齢の上限を段階的に引き上げ、最終的には60歳未満までを有期支給の対象とする方針です。
一方、これまで原則として55歳未満は遺族厚生年金の対象とされなかった子どものいない男性配偶者についても、今回の制度改正により新たに給付対象に加えられます。 具体的には、2028年の時点で60歳未満であり、子どもがいない男性が、5年間の有期支給を受けられるようになります。女性と異なり、男性については初めから60歳未満が基準として適用されます。
この見直しによって、従来は年金の対象外とされていた男性にも受給の機会が広がる一方、若年層の配偶者については、支給期間が一定に限定される制度へと変わっていくことになります。
有期給付加算による支給額の増額
支給期間が5年に短縮されることへの配慮として、新たな仕組みである有期給付加算が創設されます 。これにより、受給期間の5年間は、従来の遺族厚生年金よりも約1.3倍の年金が支払われることになります 。これは、配偶者を亡くした遺族に対する生活支援を手厚くする目的があります
年金記録の死亡時分割制度の導入
今回の改正では、配偶者が亡くなった際に、その婚姻期間中に配偶者が厚生年金に加入していた記録を、遺族の年金記録として分割できる死亡時分割制度が新たに導入されます。特に専業主婦や短時間労働の配偶者にとっては、自身の老齢厚生年金の受給額を増やす手段となり、老後の生活の安定に役立ちます。
受給要件における収入制限の撤廃
現行の遺族厚生年金制度では、受給者の年収が850万円未満であることが条件の1つでした 。しかし、今回の改正により、有期給付においては、この収入要件が撤廃され、同一生計という要件のみで遺族厚生年金を受給できるようになります 。 これにより、これまで収入要件のために遺族厚生年金の対象とならなかった人々も、新たに受給資格を得る可能性があります。
中高齢寡婦加算の段階的見直しと廃止
中高齢寡婦加算は、40歳以上65歳未満で子のいない妻、または遺族基礎年金の支給終了時に40歳以上65歳未満の子のある妻に対し、遺族厚生年金に上乗せして支給される制度です。この加算は、一度受給が始まると65歳になるまで受け取ることができます 。
しかし、今回の法改正により、2028年4月1日以降の新規対象者ついては、加算額が段階的に縮小されていき、25年後の2053年には制度そのものが廃止される予定です。
遺族基礎年金
遺族基礎年金は、これまで子どものいる配偶者または、子ども本人に対して支給されてきました。この部分に大きな制度変更はありませんが、以下の点が見直されます。
子どもに対する加算額の増額
これまで子どもがいる場合に加算される額は、2025年度時点で第1子および第2子に年額239,300円、第3子以降に年額79,800円とされていました。しかし、今回の法改正により、養育者が年金受給者の場合は、この加算額が見直され、子どもの人数にかかわらず、1人あたり年間およそ28万円が加算される仕組みへと変更されます。
子の受給要件の改善(親の事情に左右されない支給継続)
従来の遺族基礎年金制度では、親の離婚や再婚、祖父母との養子縁組、あるいは親の年収が850万円を超えるといった事情により、親が受給資格を失うと、それに連動して子どもも遺族年金を受け取れなくなるケースがありました。 今回の制度改正では、こうした親の状況に左右されやすい仕組みが見直されます。例えば、親が再婚して受給権を失った場合でも、子ども自身が引き続きその親と生計を共にしていれば、子どもへの遺族基礎年金の支給は継続されるようになります。
今回の改正で影響を受ける人と影響を受けない人
遺族年金制度の改正は、すべての受給者や将来の受給者に一律に影響を与えるわけではありません。今回の見直しによって、特に影響を受ける層と、現行制度が継続されるため影響を受けない層が明確に区分されています。
影響を受ける主な対象者
40歳未満の子どものいない女性(最終的に60歳未満にまで引き上げ)
2028年度末時点で40歳未満かつ、18歳に達する年度末までの子どもがいない女性は、新制度の対象となります。主に、これまで無期限で遺族厚生年金を受け取れていた30代の女性は、制度改正後は原則5年間の有期支給となるため、大きな影響を受けることになります。
60歳未満の子どものいない男性
60歳未満かつ18歳に達する年度末までの子どもがいない男性も、新たに5年間の有期支給の対象に加わります。
影響を受けない(現行制度が継続される)対象者
既に遺族厚生年金を受給している人
施行日前に既に遺族厚生年金を受け取っている方は、その給付内容が変更されることはありません 。
2028年度に40歳以上になる女性
施行時点で40歳以上の女性は、新たな5年有期給付の対象とはなりません 。
60歳以降に遺族年金の受給権が発生する人
60歳以降に遺族年金の受給資格が発生する人についても、今回の見直しによる影響はありません 。
18歳になった年度末までの子どもを養育している人
子どもが18歳に達する年度末までは、遺族年金の支給は現行どおり無期限で給付されるとともに、年金を受給している場合には、新制度による子ども加算の増額分も適用されます。
おわりに
いかがでしたか? 遺族年金制度の見直しは、時代の変化にあわせて公平性を高め、子どもや遺族の生活をより安定的に支えるためのものです。しかし、制度改正によりメリットが広がる一方で、これまで無期限で支給されていた人が有期支給に変わるなど、影響を受けるケースもあります。
自分や家族がどのような対象になるのかを早めに確認し、将来への備えとして役立てていくことが大切です。
【参考資料】
厚生労働省『 [年金制度の仕組みと考え方] 第13 遺族年金』
日本年金機構『遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)』
厚生労働省『年金制度改正法が成立しました』
厚生労働省『遺族厚生年金の見直しについて』
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