シニア世代の資産活用に光は差すか?プラチナNISAの期待と課題

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日本の高齢者層の資産形成・活用を支援する新たな枠組みとして「プラチナNISA」の導入が検討されています。毎月分配型の投資信託などを活用して、高齢者が定期的な収入を非課税で得られるようにすることを目指すこの制度。年金だけでは心もとないと感じる層や、眠らせている預貯金を少しでも活用したいと考えるシニア層にとっては、一筋の光明となるかもしれません。しかし、その一方で、リスクや制度設計に対する懸念の声も上がっています。

今回はこのプラチナNISAの概要と、制度の核となり得る毎月分配型投資信託の仕組みや注意点について解説します。

1. プラチナNISA構想とは?

プラチナNISAは、自民党の「資産運用立国推進議員連盟」が提言している、65歳以上のシニア層を対象とした新たな非課税投資制度の構想です。2025年末に公表予定の与党税制改正大綱に盛り込み、早ければ2026年1月からの開始を目指していると報じられています。  

制度の背景と目的

日本の個人金融資産約2,000兆円のうち、6割以上を60歳以上が保有しているとされ、半分が現金・預金として留まっている状況があります。これらの資金を投資に振り向け、個人の所得増加と経済全体の活性化を目指すとしており、プラチナNISA構想もその一環と位置づけられます。特に、インフレ下で現金の価値が目減りするリスクに対応し 、高齢者層に対して貯蓄から投資へ促す狙いがあります。  

主な特徴(検討案)

この制度は、既存のNISA制度とは別に、高齢者層のニーズに特化した設計が検討されている点が特徴です。現時点で報じられている検討案は以下の通りです。

対象年齢

65歳以上から利用可能とする方向で検討されています。 

投資対象

現行の新NISAでは対象外とされている、毎月分配型の投資信託が主な投資対象と想定されています。

税制優遇

新NISA同様、プラチナNISAの枠内で得られた分配金や売却益は非課税となる見込みです。

新NISAとの関係

現行の新NISA(生涯投資枠1,800万円)とは完全に別枠の制度として設計される案が有力視されています。これが実現すれば、新NISAの枠を使い切った人でも、追加でプラチナNISAの非課税枠を活用できる可能性があり、投資の選択肢が広がることになります。

スイッチングの解禁

保有する投資信託などの商品を売却せずに、別の商品に預け替える「スイッチング」が認められる方向で検討されています。これにより、NISAの投資上限枠を消費せずに商品の変更が可能になることが期待されます。

これらはあくまで構想段階の内容であり、今後の議論次第で変更される可能性がある点に留意が必要です。 

2. 毎月分配型投資信託とは?

プラチナNISA構想で中心的な役割を担う可能性のある毎月分配型投資信託について、その仕組み、メリット、そして特に注意すべき点を詳しく見ていきましょう。

仕組みと特徴

毎月分配型投資信託とは、1ヶ月ごとに決算を行い、得られた収益や、場合によっては元本の一部を投資家に毎月分配する商品です。投資家は、ファンドを保有し続けることで、定期的な現金収入が期待できます。

この投資信託で気を付けるべきポイントは分配金の内訳です。分配金には「普通分配金」と「特別分配金(元本払戻金)」の2種類があります。

普通分配金とは、投資信託が投資している株式の配当金や債券の利子、あるいはそれらの売買によって得られた利益など、運用収益から支払われる分配金です。これは投資家の利益とみなされるため、通常は課税対象となります。

一方、特別分配金(元本払戻金)は、運用収益だけでは予定された分配金を支払えない場合や、当初からの分配方針として、投資家が払い込んだ元本の一部を切り崩して支払われる分配金です。これは実質的に投資元本の一部返還にあたるため、利益とはならず、税金はかかりません。ただし、特別分配金を受け取ると、その分だけ投資家の個別元本は減少し、結果として売却時に受け取れる譲渡益が小さくなる可能性があります。この点を理解しないと「高い分配金が出ているから儲かっている」と誤解しやすいので注意が必要です。

この「特別分配金」の存在が、毎月分配型投資信託の評価を複雑にしています。投資家が受け取る分配金が、運用によって得られた純粋な利益なのか、それとも自身が投資した元本の一部が戻ってきているだけなのかを正確に把握することが、賢明な投資判断の第一歩となります。

メリット

最大のメリットは、投資信託を売却せずに運用を続けながら、定期的に現金収入を得られる点です 。これにより、公的年金に上乗せする形で月々の生活費を補ったり、趣味や旅行など、ゆとりのある生活を送ることが期待できます。退職後の生活において、年金以外の安定したキャッシュフローを求める声は大きく、毎月分配型投資信託はその受け皿として機能する可能性があります。

デメリットとリスク

一方で、毎月分配型ファンドには見過ごせないデメリットやリスクも存在します。

複利効果が働きにくい

運用で得た利益を再投資せず、分配金として受け取ってしまうため、利益がさらなる利益を生み出す複利効果が働きにくくなります。特に長期的な資産形成を目指す場合、複利効果の有無は最終的な資産額に大きな差を生むため、この点はNISA制度が本来目指す長期的な資産形成の考え方とは異なる側面があると言えます 。資産を大きく育てたい場合には不向きな特性と言えるでしょう。

元本取り崩しリスク

特に注意が必要なのが、この元本取り崩しリスクです。運用状況が芳しくない場合でも分配金水準を維持しようとすると、特別分配金(元本払戻金)の割合が増え、投資した元本が徐々に目減りしていく可能性があります。

手数料が高い傾向

他のタイプの投資信託と比較して、購入時にかかる販売手数料や、保有期間中にかかる信託報酬が高めに設定されていることが多く 、これらのコストは、実質的なリターンを圧迫する要因となり、せっかくの運用益や分配金が手数料で相殺されてしまう懸念があります。

おわりに

プラチナNISAは、毎月分配型の投資信託などを通じて、高齢者にとって魅力的な定期収入を得られる制度として期待されています。しかし、この制度やその対象となる金融商品には、メリットだけでなく、理解しておくべき重要な注意点やリスクも存在します。とりわけ元本払戻金(特別分配金)の意味合いや、手数料、複利効果への影響については、正確な知識を持つことが不可欠です。これらの点を軽視すると、期待した成果が得られないばかりか、かえって資産を減らしてしまう結果にもなりかねません。

今後の議論の進展と、より詳細な制度内容の公表を注視しながら、制度が実際に導入された際には安易に飛びつかず、ご自身のライフプランと照らし合わせて慎重に検討しましょう。

【参考資料】
自由民主党・衆議院議員 小林史明 公式サイト『提言全文:資産運用立国2.0に向けた提言』ー 資産運用立国議員連盟
自由民主党・衆議院議員 小林史明 公式サイト『資産運用立国 金融政策で経済の好循環を実現する』ー 資産運用立国議員連盟
内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局『資産所得倍増に関する基礎資料集

執筆者:鍛治田祐子

■ファイナンシャルプランナー

【保有資格】CFP®認定者 1級ファイナンシャルプランニング技能士

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