経済や世界情勢の不安定さが増す中、円安やインフレによる通貨価値の目減りへの懸念、そして世界各地で頻発する地政学リスクの高まりなど、将来への不安から金投資への関心が高まっています。
しかし、「金投資ってなんだか気になるけど、難しそう…」「価格が変動するって聞くけど、いつ買えばいいの?」そんな風に感じている方も多いのではないでしょうか。確かに、金投資と聞くと、専門知識が必要だったり、大金が必要だったりするイメージがあるかもしれません。
そんな金投資に対する「金ってそもそもどんな資産なの?」「どうやって買えるの?」といった基本的な疑問に、専門用語をできるだけ避けながら、初心者の方にもわかりやすくお答えします。
今回は最後まで読めば、金という資産の特性を理解し、ご自身に合った金投資の方法を見つけられるよう解説します。
■金(ゴールド)ってどんな資産?その特徴を知ろ
まずはじめに、金が他の金融商品と比べてどのような特徴を持つ資産なのかを押さえておきましょう。これがわかると、なぜ多くの人が金に注目するのかが見えてきます。
発行体のない実物資産
株式であれば企業、債券であれば国や企業といった発行体が存在します。万が一、その発行体が経営破綻したり、財政難に陥ったりすると、株券や債券の価値が大きく下がったり、無価値になったりするデフォルトリスクがあります。
一方、金そのものには発行体がありません。金はそれ自体が価値を持つ実物資産であり、特定の国や企業の信用力に左右されないため、発行体の破綻によって価値がなくなるという心配が基本的にはありません。
利息や配当がない金の収入源
預貯金の利息や株式の配当、債券の利子のように、保有しているだけで定期的にお金が入ってくる収益をインカムゲインと呼びます。金にはこのようなインカムゲインがありません。 金投資は基本的に、購入した時よりも価格が上昇したタイミングで売却することで、利益を得ます。この売却益をキャピタルゲインと呼び、金投資の主な収益源です。
インフレに強い
インフレに強いとは、物価が上昇してお金の価値が目減りする中でも、金の価値は下がりにくいという特徴を指します。金は供給量が限られた実物資産です。一般的に、インフレ時には通貨の供給が増えたり、信用が揺らいだりすることがありますが、金の場合、総量が急激に増えることはなく、価値が保たれやすいと考えられています。
実物資産としての保全性、流動性の高さ
株式や債券のように発行体の信用がなくなることで価値がゼロになるというリスクは極めて低いです。そのため、資産の保全が期待できます。また、金は世界中に取引市場があり、比較的容易に現金化できる流動性の高さも魅力です。必要な時に売りたいと思っても買い手が見つからない、という事態に陥りにくい資産と言えるでしょう。
株との値動きの違いによる分散効果
一般的に、金の価格は株式市場とは異なる値動きをする傾向があります。例えば、経済危機などで株価が大きく下落するような局面では、安全資産とされる金に資金が流れ込み、金の価格が上昇することがあります。
このように、値動きの異なる資産を組み合わせて保有することで、全体のリスクを抑える効果が期待できます。
■金の価格が動く理由とは?—値上がり・値下がりの背景を解説
金の価格は日々変動しています。では、どのような要因が金の価格に影響を与えるのでしょうか?まずは値上がりと値下がりの背景について整理しましょう。

これらの要因について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
米ドル建て取引の影響と金利との関係
金の国際的な取引は主に米ドルで行われるため、米ドルの価値や金利は、金価格に極めて大きな影響を与えます。一般的に金利が上昇すると、金よりも利回りの良い他の金融商品への投資が魅力的になるため、金は売られやすくなり、価格は下落しやすくなります。逆に、金利が低下すると、銀行預金や債券など利息を生む資産の魅力が相対的に薄れるため、金への投資が選ばれやすくなり、金価格は上昇する傾向があります。
また、金利水準とは別に、米ドルそのものへの信認度も金価格を左右します。何らかの理由で米ドルへの信頼性が揺らぐような事態が発生すると、ドルを保有するリスクが意識され、代替的な安全資産として金が買われ、価格が上昇することがあります。反対に、米ドルの信頼性が高まれば、金の魅力は相対的に低下し、価格が下落しやすくなります。
地政学リスクと国際情勢
戦争、大規模な自然災害、政治的な混乱といった地政学リスクが高まると、投資家はリスク回避のため、より安全とされる資産へ資金を移そうとします。このような有事の際には、金が安全資産として買われ、価格が上昇する傾向があります。逆に、国際情勢が安定し、地政学的な緊張が緩和されると、安全資産としての金の需要は減少し、価格は下落しやすくなります。
世界的な金需要
世界各国の中央銀行は、外貨準備の一部として金を保有しています。最近では、一部の中央銀行が金の購入を増やす動きが見られ、これが金価格を下支えする要因の一つとなっています。
また、金の需要は投資目的だけでなく、宝飾品などの実需にも支えられています。金製品の需要が拡大すると、全体の需要を押し上げ、金価格の上昇につながります。逆に、景気後退などにより宝飾品需要が減少すると、金価格の下落要因となります。
為替(円相場)の影響
日本国内で金を売買する場合、国際的なドル建ての金価格だけでなく、米ドルと円の為替レートも価格に大きな影響を与えます。例えば、ドル建ての金価格が変わらなくても、円安(1ドル=130円が1ドル=150円になるなど)が進めば、円換算した国内の金価格は上昇します。逆に、円高が進めば、国内の金価格は下落します。海外の金価格だけでなく、為替の動きにも注意が必要です。
■どの方法で金を買う?—現物・積立・ETFの違いと特徴
金地金・金貨:実物を所有
文字通り、金の延べ棒や金貨といった実物の金を購入する方法です。金の重さや純度によって価格が決まります。購入時には、本体価格に加えてバーチャージと呼ばれる手数料や、消費税がかかります。
また、盗難や紛失のリスクがあるため、自宅で保管する場合は金庫を用意したり、銀行の貸金庫を利用したりするなど、セキュリティ対策や保管場所の確保が可能な人に適しています。
「手元に実物を持ちたい」「見て楽しみたい」「資産を実感したい」人におすすめです。
純金積立:少額からOK
毎月一定額の金を継続的に購入していく方法で、金の価格が高い時には少なく、安い時には多く買うことになるため、平均購入単価を平均化するドルコスト平均法の効果が期待できます。購入時や売却時、年会費などの手数料がかかる場合があるため、事前にしっかりと比較検討することが大切です。
また、積み立てた金の保管方法には、消費寄託と混合寄託があります。消費寄託は、所有権が一時的に運営会社に移り、運営会社はその金を自社の資産として運用することができます。そのため、運営会社が倒産した場合には、金が返還されないリスクがあります。一方、混蔵寄託は、運営会社の資産とは別に保管されるため、万が一運営会社が倒産しても顧客の金は保全される可能性が高くなります 。
スマホやネットで完結できるので、外出先でも気軽に管理でき、「毎月コツコツ積み立てたい」「投資のタイミングで悩みたくない」忙しい人にぴったりの方法です。
金ETF(上場投資信託):少額・低コスト、現物との交換可の銘柄も
金価格に連動するように運用される投資信託で、株式と同じように証券取引所に上場しています。証券会社の口座を通じて、株式と同様にリアルタイムで売買でき、一口あたりの価格が少額かつ、信託報酬が比較的低コストなのが魅力です。日中に株式取引をする習慣がある人にとっては、なじみやすい方法と言えるでしょう。
一部の銘柄では、一定の口数以上を保有すると実物の金地金と交換できるものもあります。
「証券口座で管理したい」「現物の保管はしたくない」「売買タイミングを自分で選びたい」人に向いています。
金投信:為替リスクあり、NISA対応商品も多い
金に関連する資産に投資する投資信託です。金ETFなど複数の銘柄に分散投資するものをはじめ、様々なタイプがあります。ドル建ての金にも投資するため、金価格だけでなく、為替レートの変動からも影響を受けます。
NISAに対応している商品も多く、税制優遇を受けながら投資できる可能性があるため、NISA口座で投資して節税したい人には適した商品です。
「ほったらかし運用したい」「為替も含めてプロに任せたい」人におすすめです。
■初心者はここに注意!金投資で失敗しないためのポイント
金投資を始めるにあたって、特に初心者が心に留めておくべき、失敗を避けるための実践的なポイントがいくつかあります。
まず、金は株式の配当金や預金の利子のようなインカムゲインを生まない資産であるため、ご自身の資産全体に占める金の投資比率は、リスク分散の観点からも5%から10%程度に抑えるのが無難でしょう。
次に、金の価格は日々変動しており、一度にまとまった資金で購入すると高値づかみをしてしまうリスクが伴います。このリスクを避けるためには、購入時期をずらして少しずつ買い進める分散購入が有効であり、特に毎月一定額を積み立てる純金積立などで活用されるドルコスト平均法は、購入価格を平均化し、価格変動リスクを低減するのに役立ちます。
さらに、金投資には購入時や売却時の手数料だけでなく、現物で保有する場合には保管コストがかかること、そして日本国内で金取引を行う際には為替レートの変動が円建ての金価格に影響を与えることを忘れてはいけません。これらの保管コスト、為替の影響、そして各種手数料は、最終的なリターンに直接関わってくるため、投資を始める前に必ず詳細を確認し、理解しておくことが必須です。
また、金ETFや一部の金投資信託はNISAの対象となる場合があり、この非課税投資枠を上手に活用することで、得られた利益にかかる税金を抑え、節税につなげることも検討してみましょう。
■おわりに
いかがでしたか? 金は、価値が保たれやすい実物資産として知られていますが、だからといってリスクがないわけではありません。価格が変動する以上、損失を被る可能性もあります。そのため、全財産を金に投資するのではなく、資産全体のリスクを抑える分散投資の一つとして取り入れることが大切です。株式や債券とは異なる値動きをする傾向があるため、金を組み込むことでポートフォリオ全体の安定性が高まる可能性もあります
どの方法で金に投資するかは、ライフスタイルや投資目的によって異なります。実物が好きか、手間をかけたくないかなどあなたに合った手法を選びましょう。
初心者の方には、一度に大きな金額を投資するのではなく、長期的な視点で少しずつ積み立てていく方法がおすすめです。金投資への理解を深めて、賢く資産運用を始めてみてはいかがでしょうか。
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