暗号資産ETF、日本でも始まる?―税制改正と今後の展望を徹底解説

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米国では昨年、ビットコインを投資対象とする上場投資信託(ETF)が承認され、暗号資産市場は新たな局面に入っています。そして今、日本でも暗号資産ETFの導入に向けて、税制を見直す動きが進んでいます。

今回はそんな暗号資産ETF化に向けた国内制度の動き、そしてETF化が実現した場合に投資家が注意すべき点について解説します。

■ 米国でのビットコインETF承認とその影響

2024年1月、米国証券取引委員会が、11本のビットコイン現物ETFを承認したことで、暗号資産ETFに対する市場の注目が一気に高まりました。

これまでビットコインに投資するには、暗号資産取引所に口座を開設し、自らウォレットを管理する必要がありました。しかし、ETFであれば、証券会社の口座を通じて株式と同様に取引できるため、ウォレットの紛失やハッキングといった暗号資産特有の管理リスクを軽減できる魅力があります。

もっとも、証券口座であっても安全性が万全とは言い切れません。今年に入ってから日本国内の大手証券会社において、複数の不正アクセスによる口座乗っ取り事件が報道され、数百億円規模の被害が明らかになりました。
こうした事例は、ETFであっても一定のセキュリティ意識とリスク管理が不可欠であることを示しています。

ETFの登場は、機関投資家の市場参入を後押しし、資金の流入を加速させました。その結果、取引量は飛躍的に増加し、流動性が向上。流動性が高まることで、過度な価格変動が抑制され、価格の安定性にも一定の効果がありました。

■日本におけるETF導入の可能性と税制改正

米国でのビットコインETF承認を受け、日本国内でも暗号資産のETF化を期待する声が高まっています。現時点で、日本ではまだETFの承認はされていませんが、2026年に税制改正案の提出が予定されています。

与党内では、ビットコインをはじめとする暗号資産の取扱いについて金融商品として位置づけ、分離課税(税率20.315%)の適用を検討しています。現在の雑所得(最高税率45%)に比べると大きな変化といえます。
例えば、暗号資産取引で大きな利益を出した場合、これまでは他の所得と合算され、最大45%の所得税が適用されてきました。これが分離課税となれば、所得額に関わらず、所得税と住民税を合わせて20.315%(所得税15.315%、住民税5%)にまで税負担が軽減されることになります。このことは、個人投資家の参入を促す大きな転換点となり得るでしょう。

ただし、この税制優遇が適用されるのはETFなどの金融商品に限られる可能性が高いことに注意が必要です。つまり、今まで通り暗号資産取引所を通じて現物ビットコインを売買している場合は、引き続き雑所得として扱われる見込みとなります。制度上の境界線が曖昧なまま投資判断を下すと、想定以上の税負担が生じることもあり得るため、今後の制度詳細の行方を注視する必要があります。

あわせて注意したいのが、分離課税とはいえ原則として確定申告が必要になるため、収入額によっては扶養から外れたり、国民健康保険料や住民税額が増えるといった影響が生じることもあります。税制面での恩恵を受けるには、こうした点にも注意が必要です。

制度整備が慎重に進められている背景には、暗号資産に対する日本の法的な位置づけがあります。現在、日本では暗号資産は”金融商品取引法”ではなく”資金決済法”と位置づけられています。そのためこれまで、株式や投資信託のような金融商品としての取り扱いには限界がありました。資金決済法は主に決済手段や送金の仕組みとしての側面に焦点を当てており、投資対象としての制度的整備や投資家保護の枠組みは、十分に整っていないのが実情です。このような法制度の分断が、ETF導入に対する規制当局の慎重姿勢にもつながってきたと言えるでしょう。

しかし、米国証券取引委員会が複数のビットコイン現物ETFを承認したことで、各国の規制当局にも変化が生まれつつあります。とくに国際的な金融市場との整合性を重視する日本にとって、米国の動きは無視できない要素となっています。ETFをめぐる制度がグローバルに標準化されていく中で、日本も徐々に歩調を合わせる方向に舵を切り始めたといえるでしょう。

もし制度の整備が進められ、他の金融商品と同等の扱いが実現すれば、日本でも証券会社の口座を通じて、手軽に暗号資産投資ができるようになるかもしれません。

■それでも気をつけたい3つのこと

日本での暗号資産ETF導入や税制改正への期待が高まる一方で、注意すべき点もいくつか存在します。以下に、ETF化に伴う3つの重要な注意点を解説します。

価格変動リスクは消えない

ETFという仕組み自体が、ビットコインの価格に連動する以上、ボラティリティ(価格の変動幅)はそのまま反映されます。株や債券と比較して、価格変動が非常に大きく、短期間で価格が急騰することもあれば、逆に暴落することもあります。ETF化したからといってこのビットコインの特性は変わりません。

 初心者が安心しすぎるリスク

上場投資信託と聞くと、比較的安全な商品のように感じられるかもしれません。しかし、市場と連動する以上、損失のリスクは避けられず、元本保証もないことを理解しておく必要があります。

証券会社の口座で簡単に売買できる手軽さはメリットであると同時に、これまで暗号資産に触れてこなかった層も市場に参加しやすくなり、十分な知識がないまま投資を始め、予期せぬ損失を被る危険性もはらんでいます。ETFという形で誰でも手軽に買えるようになったからこそ、適切な投資教育とリスク理解がこれまで以上に重要になります。

 分離課税の範囲や実施時期が不透明

前述の通り、今後の税制改正で分離課税が導入される見通しではありますが、あくまでも検討段階であり、確定したものではありません。国会での審議を経て内容が変更される可能性も十分にあります。

税制改正やETF導入を過度に期待して、今から楽観的な投資判断を下すのは避けましょう。

おわりに

いかがでしたか? 日本でもいよいよ暗号資産ETFの導入に向けた動きが本格化しつつあります。ETF化が進めば証券口座での売買が可能となり、税制面のハードルも大幅に下がる見込みです。しかし、それは決して「魔法の杖」ではありません。価格変動のリスクや制度の不透明さは依然として存在します。

今後、制度の整備が進むにつれ、暗号資産をめぐる投資の選択肢は確実に広がっていくでしょう。同時に、投資家一人ひとりが情報を見極め、冷静に判断する力が、これまで以上に求められる時代に入ったとも言えるでしょう。

執筆者:鍛治田祐子

■ファイナンシャルプランナー

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