ファンドの定量評価

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投資信託を選ぶ際、そのファンドが本当に自分の投資目的に合っているのか、見極めることは非常に重要です。そんな見極める判断材料となるのがファンド評価です。適切な投資対象を選定する上で指標となるデータで、大きく分けて二つの評価軸があります。一つは、過去の運用実績やリスクなどの数値データに基づいて客観的に分析する”定量評価”。もう一つは、運用体制や投資戦略、運用者の能力といった数値化しにくい要素を評価する”定性評価”です。

今回はそのうち、過去の実績に焦点を当てた定量評価についてご紹介します。

ファンドの定量評価とは

ファンドの定量評価とは、主に過去の運用成績や価格変動の振れ幅といった数値データを用いて、ファンドのパフォーマンスや特性を分析する方法を指します。

この評価方法の最大の特徴は、過去の実績データに基づく客観性にあります。評価者の主観が入りにくいため、ファンドの運用実績を明確に示すことができます。複数のファンドを比較検討する際に、リターンやリスクの数値を並べることで、客観的に判断することができます。  

定量評価の指標

ファンドの定量評価では、そのパフォーマンスやリスクを多角的に分析するために様々な指標が用いられています。ここでは代表的な指標をご紹介します。

騰落率(リターン)

ファンドの運用成績を示す最も基本的な指標です。ある特定の期間(1ヶ月、3ヶ月、1年など)において、ファンドの基準価額がどれだけの割合で増減したかを表します。数値が高いほど、その期間の収益が大きかったことを意味します。これにより、儲かったか損したかが一目でわかり、同じ期間の複数のファンドを比較しやすくなります。また、ベンチマークと比べることでファンドを相対的に評価することもできます。

超過リターン(超過収益率)

ファンドの騰落率とベンチマークの騰落率の単純な差で、アクティブファンドにおいて市場平均をどれだけ上回ったのか、下回ったのかを示す指標です。「市場全体が好調だったから上がったのか」「市場が不調な中でも健闘したのか」といった判断が可能になります。

標準偏差(リスク)

リターンの変動の大きさを測る指標です。この数値が大きいほど価格変動が激しくリスクが高いことを示し、小さければ価格変動が穏やかで安定的であることを示します。ここでのリスクが高いとは、期待以上に大きく儲かる可能性もあれば、期待以上に大きく損をする可能性もあることを意味します。この数値はあくまでも変動の度合いを測るものであり、収益の増減を表すものではありません。

トラッキングエラー

トラッキングエラーとは、ファンドのリターンとベンチマークのリターンの差が、どれだけ変動したかを表す指標です。具体的には、ファンドとベンチマークのリターンの差(乖離)の標準偏差を計算した値です。インデックスファンドでもアクティブファンドでも発生し得る指標であり、数値が小さいほどベンチマークに近い運用、数値が大きいほどベンチマークから離れた運用が行われていることを意味します。

シャープレシオ

シャープレシオは、ファンドがどれだけ効率よくリターンを得ているかを示す指標です。投資では、ただ利益が大きいだけでなく、どれくらいのリスクを取ってその利益を得たかも大切です。シャープレシオが高いほど、少ないリスクで多くのリターンを得ている=運用が上手だと評価されます。リスク(価格変動の大きさ)に対してリターンを比べた結果であり、複数のファンドを比較するときに役立ちます。

インフォメーションレシオ

アクティブ運用において、どれだけ効率的かつ安定的に超過リターンを獲得できたかを示す指標です。超過リターンをトラッキングエラー(リターンのブレ幅)で割って求め、数値が大きいほど、ベンチマークを安定して上回る運用ができていることを表します。

ベータ(β)

リターンがベンチマークの動きにどれだけ連動したかを表した指標です。ベータが1であれば市場とほぼ同じ動き、1より大きければ市場より大きく動き、1より小さければ市場より小さく動くことを意味します。例えば、ベータが1.1のファンドであれば、市場が10%上昇するとファンドは11%上昇し、逆に市場が10%下落するとファンドは11%下落します。

アルファ(α)

ベータが市場全体の動きから期待されるリターンなのに対し、アルファは実際のファンドのリターンがどれだけ上回ったか、または下回ったかを示す指標です 。運用者が市場平均を超える成果を上げたかどうかを測る数値であり、運用者のスキルによって生み出された超過リターンです。プラスであれば、市場平均以上に優れた成果を上げたことを示します 。

トータルリターン

トータルリターンとは、ファンドの運用による総合的な収益を表す指標です。基準価額の値動きだけでなく、受け取った分配金を再投資したと仮定したリターン、さらに手数料や税金なども考慮して計算されます。単なる騰落率(基準価額の増減率)よりも、実際の投資成果に近い数字として、より投資家目線でファンドのパフォーマンスを把握するのに役立ちます。

定量評価の指標を確認するには

証券会社の中には、ウェブサイト上で複数のファンド情報を比較できる機能を提供しており、以下のような資料を閲覧できます。これらの情報から、定量評価に用いられる各種指標を確認することが可能です。

目論見書

投資信託の募集・販売時に投資家に対して交付される法定書面です。ファンドの投資目的や運用方針、投資対象、リスク要因、手数料などの基本的な情報が網羅されており、ベンチマークを確認することもできます。また、過去の運用実績が掲載されている場合もあります。

月次レポート

多くの運用会社が、投資家向けに毎月発行しているレポートです。直近の運用状況や市場概況、ポートフォリオの状況などがまとめられています。基準価額や直近1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年といった様々な期間の騰落率、ベンチマークの騰落率が記載されており、超過リターンを把握することもできます。

運用報告書

半期または年次で作成され投資家に交付される報告書です。過去の運用実績や価格変動要因の分析といった、月次レポートよりも詳細なデータが記載されています。報告書によっては、標準偏差やシャープレシオといった指標が記載されている場合があります。

定量評価と定性評価

ここまで定量評価の重要性とその指標について解説してきましたが、定量評価は万能ではありません。定量評価は、あくまでも過去のデータに基づいた評価であり、なぜ運用が成功したのか、将来も同様の成果が期待できるかといった点については、数値データだけでは判断できません。

例えばあるファンドが、高いアルファを記録していたとしても、それが一時的な偶然によるものなのか、それとも引き続き成果を見込めるのかは、定量評価だけでは見極めがつきません。こうした背景を読み解くには、運用体制、投資戦略、運用者の経験といった定性評価が不可欠です。

ファンドの本質的な力を見極めるには、定量評価と定性評価をバランスよく組み合わせて判断しましょう。

おわりに

いかがでしたか? なんとなくのイメージで商品を選ぶのではなく、評価指標を確認しファンド評価を読み解くことで、目的に合ったファンドを見つけることができるかもしれません。今回ご紹介したような定量評価の指標は、一つ一つは難しく見えるかもしれませんが、仕組みを理解すれば、ファンドを見極めるための強力なツールになります。特に複数のファンドを比較する際には、感覚ではなく数字に基づいて判断ができるようになります。投資判断を高めるためにも、ぜひ身につけてみてください。

執筆者:鍛治田祐子

■ファイナンシャルプランナー

【保有資格】CFP®認定者 1級ファイナンシャルプランニング技能士

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