今回は民法第940条「相続の放棄をした者による管理」の改正について、お伝えいたします。
現在はまだ改正されておらず、「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」が取りまとめられた状態です。今後、内容が変更される可能性がございますのでご注意ください。
現行の民法第940条はどんな内容?
現行法の民法第940条第1項では次のように定められています。
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
つまり、第一順位の相続人Aが相続放棄をした場合であっても、第二順位の相続人Bが相続財産の管理を始めることができるまで、Aはその財産の管理を継続しなければならないということです。
現行の民法第940条第1項は何が問題?
現行の民法第940条第1項では、次のような問題点が挙げられます。
- 第一順位の相続人が相続放棄した時点で、その相続財産を占有していない場合はどうなるの? →「手元にないのにどうやって管理すんねん!」
- どんな相続財産があるのか分からない状態で相続放棄した場合でも、管理義務が発生するの? →「把握してへんねんから管理できへんやん!」
- “負動産”とか処分したい時、相続財産管理人の申し立てで予納金を支払わなければならないの? →「こちとら、お金を支払いたくないから放棄してんのに、なんでお金払わんなアカンねん!」
まぁ、他にもたくさん言いたいことはあるでしょう…。
中間試案での改正案
「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」(18ページ目/21スライド目)によると、民法第940条第1項は次のように改正するとのことです。
相続の放棄をした者がその放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している場合には,相続人又は相続財産法人に対して当該財産を引き渡すまでの間,その財産を保存する義務を負う。この場合には,相続の放棄をした者は,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産を保存すれば足りる。
(注1)保存義務の具体的な内容については,①財産を滅失させ,又は損傷する行為をしてはならないことに加え,財産の現状を維持するために必要な行為をしなければならないことを意味するとの考え方と,②財産の現状を滅失させ,又は損傷する行為をしてはならないことのみを意味するとの考え方がある。
(注2)相続の放棄をした者は,相続財産の管理又は処分をする権限及び義務(保存行為をする権限及び義務を除く。)を負わないことを前提としている。
(注3)相続の放棄をした者が負う義務等の程度については,善良なる管理者の注意とする考え方もある。
(注4)次順位の相続人が財産の引渡しに応じない場合や,次順位の相続人がいない場合に放棄者が保存義務を免れるための方策(例えば,①次順位相続人に対して一定期間内に相続財産の引渡しに応じるよう催告をし,その期間が経過したときは保存義務が終了するものとすることや,②相続財産を供託することによって保存義務が終了することを認める方策)については,引き続き検討する。
現行法と改正案の比較ポイント
●相続財産を占有しているかどうか
- 現行法→たとえ占有していなくても、次順位に管理責任を負わせるまで一律に管理責任を継続する。
- 改正案→相続財産を占有している場合だけ保存義務を継続する。
たとえば、田舎に住んでる老夫婦の片方が死亡し、その子どもが都会で一人暮らし、というケースにおいて、被相続人の配偶者も子どもも相続放棄した場合、管理するのは配偶者になる(子どもは管理しなくていい)ということですかね。
●責任や義務から解放されるタイミング
- 現行法→その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで
- 改正案→相続人又は相続財産法人に対して当該財産を引き渡すまで
現行法でも改正案と同じ解釈がなされているかと思いますので、曖昧だった表現をハッキリさせただけのような気がしますが、「保存義務を免れるための方策」が前述の(引用注4)に記載されていますので、そちらも参考にしてください。
●管理責任と保存義務
- 現行法→その財産の管理を継続しなければならない
- 改正案→その財産を保存する義務を負う
これは実質、あんまり変わってる気がしませんね。
あくまで個人的な印象ですが、管理・保存という単語から、たとえば崩壊しそうな建物の場合、「管理」というのは「危険因子を取り除く」まで含まれ、「保存」というのは「崩壊しなけりゃ、それで良し」というイメージがあります。
また、前述の(引用注1)で「保存義務」についての考え方が書かれていますが、結局どっちの考え方になるのかも気になるところですね。
所有者不明土地管理制度の創設
所有者不明土地管理制度(10ページ目/13スライド目)の創設案も検討されています。
具体的には、戸籍等を調査しても相続人が分からない場合や相続人が全員相続放棄をした場合などに、利害関係人が裁判所へ申し立てることで裁判所から土地管理人が選任され、管理・処分を任されます。
これは、前述の問題点で挙げた相続財産管理人の申し立てにかかる予納金を負担できないことを考慮しての制度で、利害関係人の利益に配慮される見込みです。
相続財産管理人の制度の見直し
現行法(民法第952条)において、相続財産管理人は相続財産を売却して金銭に換えるなどして債権者や受遺者への支払いをしたり、特別縁故者に相続財産を分与するための手続きをしたり、相続財産が残れば国庫に引き継ぐなどの業務(清算を目的とした業務)をします。
見直し案(16ページ目/19スライド目)では現行法とは別に「相続人のあることが明らかでない場合における相続財産の保存のための相続財産管理制度」を利用できるようにするための検討がなされています。つまり、現行法のような清算を目的としているのではなく、あくまで保存を目的とした業務を任せるということです。
おわりに
「相続放棄をしたい」=「その相続財産に一切関わりたくない」という気持ちの表れかと思います。法律の改正には長い時間を要すると思いますが、少しでも放棄する人が楽をできるようになってくれることを期待しています。
【参考資料】
法務省『「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案」(令和元年12月3日)取りまとめ』
法務省 『民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案』
※上記の中間試案取りまとめ後も審議会が行われています。
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