以前の記事で、米国株の下落についてお伝えしました。今回は”米雇用統計”について考えたいと思います。
米雇用統計にふれる理由
なぜ筆者が米雇用統計の話をしようと思ったのかというと、金利に影響する場合があるからです。金利に影響を与えるということは株価にも影響を与えるということです。
FRBが行う金融政策には連邦準備法(Federal Reserve Act)で決められた目的が2つあります。”雇用の最大化”と”物価の安定”です。特に雇用の最大化では、米雇用統計を重要視されます。
なお、これら2つの目的を合わせて”デュアル・マンデート”なんて呼ばれたりしてます。
そもそも米雇用統計とは?
次に米雇用統計について考えたいと思います。
まずは米雇用統計の概要から説明します。
米雇用統計は、米国の雇用情勢を調査した統計で米国労働省(U.S. Department of Labor Bureau of Labor Statistics)が毎月第1金曜日に発表しています。(厳密には毎月12日を含む1週間で調査し、その3週間後の金曜日に発表なので、稀に第二金曜日になることがあります)
具体的には、失業率 非農業部門雇用者数 平均時給 週労働時間 建設業就業者数 製造業就業者数 金融機関就業者数のほか、セクター別 年齢別 人種別の就業者数などを発表しています。
今回はその中でも”失業率””非農業部門雇用者数””平均時給”の3つについて確認します。
失業率
まずは失業率から確認してみましょう。
8月の雇用統計では、失業率が予想の9.8%を下回り、8.4%という結果になりました。つまり「みんなが思っているほど職を失った人は多くなかった」ということを意味し、経済的には”良いこと”とされます。米10年債の利回りが急騰したのは、FRBの中の人たちで「(経済的に) 良いじゃん良いじゃん!」というノリが発生したからでしょう。
上表は、2020年1月から8月までの失業率です。4月をピークに、5月から8月まで4ヶ月連続下がり続けており、一見すると”良いこと”に感じますが、これまでの平均失業率はおよそ6%(緑の線)ですから、今回の8.4%は「過去を振り返った数値と比較すると、まだまだ失業率が高い(職を失ってる人がたくさんいる)」と判断できます。
非農業部門雇用者数
次に、非農業部門雇用者数を確認しましょう。非農業部門雇用者数とは、自営業や農業従事者を含まず、事業所約40万社・従業員数約4700万人を対象にしており、全米の約1/3を網羅している(つまり重要視される)と言われている指標です。
今年3月からの非農業部門雇用者数を振り返ると次のようなことが分かります。
3月と4月:コロナの影響で2,206万人減(職を失った)
5月から8月:4ヶ月間で1,061万人増(職を取り戻した)
8月:予想を下回る結果(予想より職を失った人が多かった)
7月:下方修正(速報値よりも職を失った人が多いと修正した)
半分ぐらいがまだ職を取り戻しておらず、下方修正されたり予想を下回ったりしていることから、就業者数の伸びが鈍化していると判断され、経済的には”懸念材料”となります。
平均時給
平均時給(前年同月比)は、予想が+4.5%なのに対し、結果は+4.7%と予想を上回りました。
本来であれば、賃金が伸びていることは景気拡大を示唆するとして経済的には”良いこと”になるのですが、このコロナ禍では残念ながら”良いこと”とは言い切れません。
次の2つの質問に答えれば、その理由が分かるでしょう。
- コロナの影響をモロに食らったのは、どのような業種の人だと思いますか?
- その業種の人たちの賃金は高いですか?それとも安いですか?
……そういうことです。
この質問の答えが思いつかない人のために、ざっくり説明すると、1の答えは「サービス業」「小売り業」など、基本的に人と接する仕事が多く、現場に出向かなければならない、体力勝負な人たちでしょう。そして、2の答えは「安い」と考えられます。
仮にコロナが世界に広まらず、サービス業や小売業の人たちがいつも通り働けていたならば、平均時給はもっと下がっていたハズなのです。これは、サービス業や小売業の人たちが、今もなお職場に復帰できておらず、ホワイトカラーで働く人たちが平均時給を押し上げていることを示すので”良いこと”とは言い切れないのです。
おわりに
今回発表された米雇用統計では、失業率こそ改善していますが、労働市場が良いことづくめになるには、まだ時間がかかりそうですね。
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