同じ人でも、業務中とお客さんの立場では数字の感覚が異なることをご存知ですか?
例えば、業務に従事している時に1万円の損失を出しても、額面通り1万円でしかありませんが、プライベートやお客さんの立場で1万円を失うと、「2万円分も損した!」と思ってしまうかもしれません。
今回は、お金と心理学を融合させた学問である行動経済学の中からプロスペクト理論について説明します。
■なにがなんでも損をしたくない心理:損失回避性
損失回避性とは「利益を得る嬉しさよりも、損失による悲しみに強く反応する」という性質のことを指します。この心理傾向により、たとえリスクがあったとしても損失を避けたいという気持ちが上回り、時には合理的ではない選択をしてしまうことがあります。
例えば、損失回避性の基となった実験では被験者に以下のような質問をしました。
質問「あなたならAとBどちらを選びますか?」
A:100万円が無条件で手に入る
B:ゲームをすると50%の確率で200万円が手に入るが、残り50%は何も手に入らない
合理的に考えるのであれば、どちらも期待値が同じ100万円であるためAでもBでもどちらでもいいはずですが、多くの人は確実に利益を得られるAを選びます。
では次の質問はどうでしょう?
「コインを投げ、オモテが出たら●●円受け取れますが、裏が出たら1,000円支払わなければなりません。●●円がいくらなら、あなたはこのゲームに参加しますか?」
もし、上記の質問で「●●円が2,500円なら参加する」と答えたのであれば、あなたにとって同額の利益よりも損失の方が2.5倍強く評価されることになります。つまり、1,000円の出費に伴うダメージと2,500円を手に入れた時の喜びが同一の価値ということです。
■どこを基準にするかによって評価が変わる:参照点依存性
参照点依存性とは「基準となる金額や状況との比較によって、評価が変わる」という性質のことを指します。この心理傾向により、同じ金額や条件でも基準からどれだけ変化したかによって主観的な価値が変わります。
例えば、1,000円の商品が2割引きで800円になっていたとします。多くの人は200円引きでお得だと感じるでしょう。しかし、最初から800円で販売されていた場合には、お得感が得られず購入を控える傾向にあります。
支払う金額は同じにも関わらず、元値からの変化が見られると価値が高く感じられるのです。
■金額が大きくなると鈍感になる:感応度逓減性(かんのうどていげんせい)
感応度逓減性とは「金額が大きくなるほど、変化に対する感覚が鈍くなる」という性質を指します。この心理傾向により、損失が同額であったとしても、元となるお金が大きくなるとダメージを感じにくくなります。
例えば、A店で10,000円で売られている商品が、15分ほど離れたB店では6,000円で売られていると、多くの人はB店で商品を購入します。しかし、商品の価格がそれぞれA店が19,998,000円、B店が19,994,000円だった場合、B店で購入する人は少なくなります。
お店の立地や価格の差(例では4,000円)は変わらないのにも関わらず、売値が大きくなると感覚が鈍感になりお得感が薄くなってしまうのです。
■仕事で活用するプロスペクト理論
損失回避性の活用例
損をしたくないという心理を刺激することで相手に行動を促すことができます。
例えば、業務ミスを減らしたい場合「チェックを怠りミスが発生した場合、ミス1つあたり〇〇円の損害が発生する/〇〇分の残業が発生する。」などと伝えることで、チェックを徹底を促すことができます。
参照点依存性の活用例
比較対象を提示することで相手にとっての価値を高めることができます。
例えば、商品の伸び率をアピールしたい場合、「昨年度の売り上げは過去最高を記録し、今年度も第2四半期の売り上げは前年を上回る結果となっています。」と基準となるデータを提示することで安心感を与えることができます。
感応度逓減性の活用例
基準を小さく設定することで相手に納得感を生み出すことができます。
例えば、利益を強調したい場合「年間50万円の利益が期待できます。」と言うより「月々約4万2000円、年間で50万円の利益が期待できます。」と説明することで説得力を高めることができます。
■おわりに
いかがでしたか? プロスペクト理論を活用することで仕事を思い通りに進めたり、思わぬ成果を得られるかもしれません。是非、相手の心理を理解した上で、新しいアプローチを取り入れてみてください。
【参考】
Econometrica 『Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk』ー Daniel Kahneman and Amos Tversky(1979)
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