これまで経過措置によって医療機関窓口での自己負担額が1割だった75歳以上の人も、2025年10月以降、一定以上の所得がある場合は本来の2割負担へと増額されます。
今回は、この2割負担の仕組みや対象となる条件、そして家計への影響についてわかりやすく解説します。
制度の概要
後期高齢者医療制度は、75歳以上の人が必ず加入する公的医療保険制度です。
この制度を支える財源は、公費43.38%、現役世代からの支援金37.50%、後期高齢者の保険料8.15%、窓口負担8.15%、その他2.72%で賄われています。つまり、医療費全体の大部分を国と現役世代が支えている仕組みです。
これまでの制度では、後期高齢者の窓口負担割合は「原則1割、現役並み所得者は3割」の2つの区分しかありませんでした。
しかし、団塊の世代が75歳以上となり始め、医療費の総額は年々増加。現役世代が負担する支援金も膨らみ続ける見通しとなっています。こうした状況を踏まえ、制度を持続可能なものにするため、所得に応じて高齢者自身にも一定の負担を求める仕組みとして2割負担が新設されました。これにより、所得に応じて3段階で負担する形に見直されました。
詳細は後述しますが、イメージとしては次の通りです。
- 1割:住民税非課税世帯や所得が少ない世帯
- 2割:一定以上の所得がある世帯
- 3割:現役並み所得の世帯
2025年9月30日までの3年間は、経過的な特例措置(配慮措置)が設けられ、2割負担の対象となった人でも、1か月あたりの自己負担増加額を3,000円までに抑えられていました。しかし、10月からは本来の2割負担が全面的に適用されます。
対象となる人
2割負担の対象となるのは、現役並み所得者(3割負担)を除き、一定以上の所得がある人です。 自己負担割合は通常、前年の所得をもとに毎年8月1日に見直されます。年金や給与など収入に変動があった場合、翌年度に負担割合が変わる可能性があります。
2割負担となるためには、次の 2つの条件を満たす必要があります。
① 課税所得が28万円以上145万円未満
課税所得とは、前年の収入からまず公的年金等控除を差し引いて所得金額を求め、さらに社会保険料控除(年金から天引きされた介護保険料や後期高齢者医療保険料など)や基礎控除などの所得控除を差し引いた後の金額です。これは、毎年6月頃に届く住民税納税通知書に、課税標準として記載されています。
この課税所得が28万円以上145万円未満であることが、1つ目の条件となります。
② 収入が200万円以上 or 320万円以上
公的医療保険制度では、同じ制度に加入している人を1つの世帯とみなします。その上で、次のように区分されます。
- 75歳が1人の単身世帯:年金収入+その他の合計所得金額が 200万円以上
- 75歳が2人以上いる世帯:年金収入+その他の合計所得金額が 320万円以上
ここでいう年金収入には、非課税になる遺族年金や障害年金は含まれません。
また、その他の合計所得金額とは、事業収入や給与収入から必要経費や給与所得控除などを差し引いた後の金額を指します。
それぞれの世帯区分に応じたこの収入要件を満たすことが、2つ目の条件となります。
モデルケースで見る「1割負担」と「2割負担」
収入が公的年金のみの単身世帯と2人世帯を例に、2割負担になる具体的なモデルケースを見ていきましょう。計算の前提となる金額はあくまで一例です。
75歳以上の単身世帯
前提条件:公的年金収入199万円、公的年金以外の収入なし、社会保険料控除17万円
①課税所得
199万円(年金収入)− 110万円(公的年金等控除)− 17万円(社会保険料控除)− 43万円(基礎控除)= 課税所得29万円
課税所得は28万円以上145万円未満のため2割負担の条件を1つ満たすことになります。
②収入
75歳以上の単身世帯で収入が200万円未満であるため、2割負担の条件には該当しません。
このケースでは課税所得は28万円を超えていますが、年金収入とその他の収入を合わせた合計額が200万円を下回っているため、1割負担のままです。
75歳以上が2人の世帯
前提条件:【夫】公的年金収入250万円、公的年金以外の収入なし、社会保険料控除21万円、
配偶者控除38万円
【妻】公的年金収入78万円、公的年金以外の収入なし
①課税所得
【夫】250万円(年金収入) − 110万円(公的年金等控除)− 21万円(社会保険料控除)− 38万円(配偶者控除)− 43万円(基礎控除)= 課税所得38万円
【妻】78万円(年金収入) − 78万円(公的年金等控除) = 課税所得0円 世帯の課税所得が28万円以上145万円未満のため2割負担の条件を1つ満たすことになります。
②収入
世帯の総収入(250万円+78万円=328万円)が320万円以上のため、2割負担の対象となります。
このケースでは、課税所得に加えて、世帯全体の年金収入とその他の収入を合わせた合計額が320万円を上回っているため、2割負担になります。
経過措置の終了でどう変わる?
外来診療で月5万円の医療費がかかった場合を例に考えてみましょう。
- 従来の1割負担:自己負担額 5,000円
- 経過措置期間中(上限3,000円):自己負担額 8,000円(5,000円+3,000円)
- 経過措置終了後(本来の2割負担):自己負担額 10,000円
負担割合は上がりますが、高額療養費制度や高額介護合算療養費制度などの支援制度は引き続き利用できるため、医療費や介護費の自己負担額が一定の上限を超えた場合には、その超過分を受給できます。
これにより、医療や介護を継続的に利用する場合であっても、実質的な負担を一定の範囲内に収めることができます。
また、年間の医療費が多かった場合には、確定申告にて医療費控除を適用することで課税所得を軽減できます。課税所得が軽減できれば、所得税や住民税の節税に繋がるほか、翌年度における医療費の窓口負担割合が下がる可能性もあります。
おわりに
負担割合が変わることで家計への影響は避けられませんが、高額療養費制度や医療費控除などを上手に活用することで、自己負担を抑えられる可能性があります。
これを機に、少しでもお得になる制度の仕組みや、あなたやご家族がどの区分に該当するのかを確認しておきましょう。もし具体的な判定に迷った場合は、お住まいの市区町村の窓口、または後期高齢者医療広域連合にご相談されることをお勧めします。
【参考資料】
厚生労働省『高齢者医療制度』
厚生労働省『後期高齢者医療の窓口負担割合の見直しについて(お知らせ)』
厚生労働省『医療費の一部負担(自己負担)割合について』
和歌山県南海市『窓口負担割合2割のモデルケース』
厚生労働省『高額介護合算療養費制度』


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