金融所得が社会保険料に反映|医療・介護負担見直しの背景

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2025年に団塊の世代が全て75歳以上となり、日本における人口の18%が後期高齢者となりました。医療費や介護費の膨張は避けられない状況にあり、負担をどう分担していくかが大きな課題となっています。こうした背景から、株式の配当や投資信託の分配金、売却益など投資によって得られる「金融所得」を社会保険料に反映させるという改革案を検討しています。

今回は、なぜ金融所得を社会保険料に反映させるのか、そしてその影響はどこに及ぶのかについて解説します。

金融所得を社会保険料に反映する狙い

政府の資料や自民党のサイトでは、金融所得を反映させる主な理由として現役世代の負担軽減と確定申告の有無による不公平の解消をあげています。

現役世代の負担軽減

75歳以上になると、それまで加入していた公的医療保険から、後期高齢者医療制度に自動的に移行します。この制度の財源は、被保険者が支払う保険料に加え、公費や現役世代からの支援金によってまかなわれています。
ところが、この支援金は人口減少と高齢化に伴って増え続けており、現役世代1人あたりの負担は制度創設時の1.7倍に増加しました。一方で、高齢者1人あたりの負担増は1.2倍にとどまっています。
こうした不均衡を是正するため、政府は「後期高齢者1人あたりの保険料」と「現役世代1人あたりの後期高齢者支援金」の伸び率が同じ水準となるよう、制度の見直しを進めています。

また議論の中では、医療費や介護費の負担に金融所得を反映させることで、現役世代の負担増を抑えつつ、高齢者も含め負担能力に応じて支え合う仕組みへと改革していく必要があるとしています。

確定申告の有無による不公平の解消

株式や投資信託で源泉徴収ありの特定口座を利用すると、投資家本人は確定申告を行う必要がありません。なぜなら、証券会社が投資の取引情報とともに税金を源泉徴収し、税務署へ納付するからです。しかし、この取引情報は自治体に共有されないため、医療保険料や介護保険料の算定に反映されません。
一方、確定申告を行った場合には、金融所得の情報が自治体にも伝わり、医療保険料や介護保険料の算定対象に加えられます。

その結果、同じように金融所得があっても、確定申告をするかどうかで社会保険料に反映される人とされない人が出てしまう不公平が指摘されています。

金融所得の有無による社会保険料の比較

例えば、70歳後半の独身者で年間の年金収入が270万円、金融所得(株式配当)が50万円ある場合を想定します。なお、都道府県によって負担額や負担割合は大きく異なるため、ここでの試算は全国平均を基に行います。

●金融所得が反映されないケース(=確定申告をしない場合)
医療保険料:169,846円
介護保険料:97,110円
合計:266,956円

●金融所得が反映されるケース(=確定申告をする場合)
医療保険料:22896円
介護保険料:112,050円
合計:332,946円
その差額は65,990円にもなり、負担は約1.25倍になります。

さらに窓口での自己負担も異なり、医療保険はどちらの場合も1割負担のままですが、介護保険は金融所得が反映され、一定の所得基準を超えると2割負担に引き上げられます。

このように、確定申告の有無によって社会保険料や自己負担に差が生じるため、老後の家計設計や投資の取り崩し方にも影響が及ぶと考えられます。

今後の制度設計

政府の資料では、金融所得の把握するためにマイナンバーの活用を進める方針が示されています。現在、投資のために口座を開設・利用する際には、マイナンバーの提出が義務付けられており、行政が金融所得の情報を把握するための基盤は既にできていると言えます。
今後は、マイナンバーを通じて税務情報と自治体のシステムを連携させることで、確定申告の有無に関わらず金融所得を反映できる制度作りを目指すものと考えられます。

ただし、非課税制度であるNISAによって得られた利益については、社会保険料の算定には含めない方針が明示されています。
制度改正は、2028年を目途に決定または実施される方向で議論が進められています。

おわりに

まだ検討段階ではありますが、導入されれば源泉徴収ありの特定口座を選択している投資家の負担増は避けられません。特に、老後資金として配当金を期待している人にとっては、将来設計の見直しが必要となります。投資や家計管理に影響する重要なテーマであるため、今後も動向を注視していく必要があります。

【参考資料】
厚生労働省『我が国の人口について
内閣官房『全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)について
内閣府『経済財政運営と改革の基本方針2025 について
自民党『社会保険料等に金融所得の適切な反映を~確定申告の有無による保険料の算定等の不公平の解消に向け議論実施~
厚生労働省『後期高齢者医療制度の令和6・7年度の保険料率について

執筆者:鍛治田祐子

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